お知らせ NEWS
-2026.09.30
2026次世代シーケンシング感染症応用国際サミット
未知の急性重症感染症に立ち向かう!日台の専門家が集結し、mNGSの臨床診断・研究における新たな展開を探る
| 記者 高佳樺(コウ・チアファ) 出典:Global Bio & Investment 環球生技 |

(写真説明)日本のゲスト3名が、台湾衛生福利部(日本の厚生労働省に相当)次長の荘人祥氏、医事司司長の劉越萍氏らとともにサミットに参加。(撮影/李林娜)
台湾感染症医学会が主催し、Asia Pathogenomics Co., Ltd (APG) 等が協賛する「2026 次世代シーケンシング感染症応用国際サミット」が先日(5日)開催されました。本サミットには、日本臨床検査医学会理事長の栁原克紀(Katsunori Yanagihara)氏、大阪大学医学系研究科教授の忽那賢志(Satoshi Kutsuna)氏、朝日大学病院教授の三鴨廣繁(Hiroshige Mikamo)氏が招聘され、台湾の医学界および産業界の専門家と、感染症診断におけるメタゲノミクス次世代シーケンシング(mNGS)の臨床応用について意見交換を行いました。
栁原克紀氏は、台湾は現在日本よりもmNGSの実際の運用経験が豊富であると述べ、今回のサミットを通じて台湾におけるmNGSの臨床導入の実績や成果を学び、将来日本で臨床導入する際の参考にしたいと期待を寄せました。一方、台湾感染症医学会理事長の張峰義氏は、日本は微生物学および感染症診断の分野で豊富な経験があり、台湾が学ぶべき点が多いと語りました。
重症感染症で病原体が見つからない? mNGSが診断困難例の突破口に
栁原克紀氏は、感染症診療において重要な前提は「病原体を迅速かつ正確に特定すること」であると指摘しました。しかし、臨床の現場では従来の検査を行っても原因が特定できないケースが少なくありません。このような場合、特に中枢神経感染症、骨関節感染症、集中治療室(ICU)における肺炎や敗血症など、従来の検査では感染源の特定が難しい病態においてmNGSの活用が検討されます。
三鴨廣繁氏も、複数の感染症が懸念され、事前に病原体を絞り込むことが難しい患者に対して、mNGSがより有用であると述べました。
張峰義氏は、従来の検査は臨床的な仮説を立てた上で特定の病原体を1つずつ検査していくため、実際の病原体が想定外であった場合、診断に至らないリスクがあると説明しました。対照的に、mNGSは事前に特定の病原体を設定する必要がなく、感染症専門医の経験や培養方法の制約を受けにくいという強みがあり、これが急性重症感染症やまれな感染症において非常に重要であると強調しました。
張氏は例として脳炎、髄膜炎、敗血症を挙げ、これらは治療の「ゴールデンタイム」が存在するため、複数の従来検査を一つずつ待っていては処置が遅れる可能性があると指摘しました。また、海外からの輸入感染症、まれな感染症、臨床であまり遭遇しない感染症など、従来の検査方法では不十分なケースにおいても、mNGSが新たな選択肢となり得ると語りました。
mNGSは「検査すれば答えが出る」わけではない! 検査のタイミングと結果の解釈が鍵
ただし栁原克紀氏は、mNGSが診断や治療の補助として本当の価値を発揮するためには、「どのような患者に、いつ検査を実施すべきか」を見極めること、そして「臨床医が結果を正しく解釈できるように教育すること」が極めて重要であると強調しました。張峰義氏も、mNGSの位置づけは既存の微生物検査に取って代わるものではなく、未知の感染症における診断のブラインドスポット(死角)を補うものであり、すべての患者にNGS検査が必要なわけではないと述べました。
張氏によると、台湾感染症医学会は2025年7月に「感染症病原体特定におけるメタゲノミクス次世代シーケンシングの臨床応用推奨ガイドライン」を発表しました。これはエビデンスに基づき、緊急を要する感染症、特殊な部位の感染症、および既存の検査で原因が特定できない診断困難例など、mNGSの適用を検討すべきシナリオをまとめたものです。
忽那賢志氏は、mNGSで陰性結果が出た際の臨床的価値について補足しました。感染症が疑われつつも病原体が特定されていない段階では、臨床的にまず抗菌薬が使用されることが一般的です。その後のmNGSでも病原体が検出されなかった場合、その陰性結果自体が重要な情報となり、医師が感染症以外の原因を再評価したり、抗菌薬の継続投与が必要かを再検討する判断材料になります。
mNGS、tNGS、AIなどの革新技術が従来の感染症検査の盲点をカバー
mNGS以外にも、感染症診断に役立つ革新的な技術が注目を集めています。
三鴨廣繁氏は、臨床症状からある程度病原体を絞り込める場合には、特定の範囲の病原微生物を狙って検査する「ターゲット次世代シーケンシング(tNGS)」が有効であると述べました。例として性感染症のように病原体の方向性が明確な場合、tNGSの利用が適していると説明しました。 tNGSはコストを抑えられるため、医療経済的な観点からも有利であり、今後は臨床状況に応じてmNGSとtNGSを使い分けていくことが考えられます。
一方で三鴨氏は、細菌培養やウイルス培養といった従来の手法も新たな病原体の発見や、配列情報の蓄積・データベースの拡充に引き続き役立つと述べました。mNGSで病原体を識別するには既存の遺伝子情報に依存するため、完全に未知の微生物に対しては直接識別できない場合があり、従来の検査法を完全に置き換えることはできないと指摘しました。
栁原克紀氏は、日本においてAIを用いてグラム染色画像やインフルエンザ患者の咽頭画像を分析する技術が開発されていることを紹介しました。将来的にAIとmNGSが融合すれば、感染症診断をさらに支援できる可能性があるとの見解を示しました。
個別の病原体診断にとどまらず、三鴨廣繁氏は「ワンヘルス(One Health)」の観点から感染症予防・制御について言及しました。人間に対する医療だけでなく、動物や獣医学、さらには環境全体を含めた広範な視点から感染症問題に取り組む必要があると訴えました。
例えば、下水サーベイランス(下水道の排水監視)はワンヘルスの重要な要素の1つです。忽那賢志氏は、下水中の微生物組成を分析することで、地域レベルでの感染状況や流行の変化を把握でき、特定の病原体が大規模流行する前に早期警戒シグナルを捉えられる可能性があると説明しました。
mNGSの臨床導入には課題も! 日本の専門家「台湾の臨床導入経験に学びたい」
最後に張峰義氏は、安定したmNGS診断サービスを構築するためにはシーケンサーなどの機器だけでなく、それに対応する技術、人材、予算が不可欠であると改めて強調しました。検体採取、保存、搬送からコンタミネーション(汚染)制御に至るまで、検査品質を確保するための完全かつ安定したプロセスが必要です。また、検査完了後も専門知識を持った人材が臨床的意味を正しく判断する必要があるため、教育訓練も欠かせません。
三鴨廣繁氏は、日本におけるmNGSの応用は現在も特定の大学や研究機関が中心であると明かしました。単一の大学や病院のラボが単独で包括的なmNGS診断能力を長期維持することは容易ではないため、産業界との連携が必要です。Asia Pathogenomics Co., Ltd (APG) のような企業からの支援を受けつつ、日本においてもビジネスモデルとしてmNGSサービスを推進し、感染症の臨床診断に、より包括的なソリューションを提供できるよう期待を示しました。
